研究論文の分析の概要を記述する方法
質的データの分析1(概要)──地域社会学II2012年1月18日 高山龍太郎のブログ/ウェブリブログ
1月18日の授業から3回、質的データ分析の話をしていきます。この日はその初回ですので、その概要について説明しました。質的データ分析の本質は、「日付順で機械的に保管されているデータを並び替えて、意味のまとまりとその有機的なつながりであるストーリーを見いだすこと」だと思われます。その作業は「完成図のないジグソーパズル」にたとえられるでしょう。このストーリー(物語)が、無味乾燥なデータに命を吹き込みます。読者は、ストーリーの力によって、調査対象となっている社会的世界について「なるほど!」と理解できるようになるのです。こうしたデータとストーリーを関連づける作業は、「コーディング」と呼ばれます。このコーディングが質的データ分析の要です。来週は、そのコーディングの具体的な方 法について取り上げる予定です。講義ノートはこちら(MS Word, 250Kb)
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講義ノートテキスト版
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20120118地域社会学II(質的データの分析1概要)
質的データの分析1──概要
質的データの保存
保存に日付順にする
保管のコツはルールをシンプルにすること
分類を始めるといろいろと悩むので、時間がかかり整理・保管がイヤになる
調査プロジェクトごとに日付順(時系列)に機械的に整理する
年月日を8桁の数字にして整理のキーにする
2012年1月13日→20120113
古いものは小さな数字になり、新しいものは大きな数字になる
この8桁の数字の順にデータを並べる
ファイルボックスとフォルダ
調査プロジェクトごとにファイルボックスを作る。クリアフォルダに「日付+内容」というラベルを貼る。クリアフォルダにその日に収集した資料を入れて、日付順にファイルボックスに入れていく
クリアフォルダがかさばる場合は、情報源(フィールドノーツ、インタビュー記録など)ごとにフラットファイルを作り、文書を日付順に綴じる
電子データの場合もこれに準ずる
調査プロジェクトごとにフォルダを作り、ファイル名を「日付+内容」などとする
「名前で並び替え」を指定すれば、日付順にファイルが並ぶ
原本は改変しない
データを加工する場合は、コピーを取ってコピーに手を加える
原本が元のままであれば、データ加工に失敗しても一からやり直せるから
質的データ分析は試行錯誤が多い
質的データ分析の概要
完成図のないジグソーパズル
質的データの分析は、ジグソーパズルに似ている。ただし、最初に自分でピースを作らなければならないし、事前に完成図があたえられてもいない。
以下の話は、質的データ分析だけでなく、レポート作成や卒業論文執筆などにも応用できる。
分析の流れ──ジグソーパズルのたとえで
フィールドノーツ、インタビュー記録、ドキュメントなどのデータが、パズルのピースを作る材料である。意味のまとまりで、これらのデータを分解し、パズルのピースに相当するものを作る。
パズルを組み立てるヒントとなるピースの特徴を考える(例:色が同じ、形が似ている)
似た特徴をもつピースを集め、組み立てられそうなところから組み立ててみる
組み上がったピースから、全体の完成図を予想する(仮の完成図=仮説)
予想した仮の完成図(仮説)にもとづいて、組み上げたピース同士を組み立てる
ピースを組み立てながら、仮の完成図が正しいか正しくないか、判断する。正しければ、そのまま続行し、細部を詰めていく。仮の完成図が正しくなければ(ピースがうまく組み上がらないならば)、始めのほうに戻って、別の仮完成図を予想してやり直す。
ジグソーパズルのピース ジグソーパズルの完成図(絵柄)
質的データを意味のまとまりで分解したもの 調査報告書(論文、エスノグラフィなど)のストーリー(物語)
データとストーリーの関連づけ──コーディング
コーディング作業
日付順で機械的に並んでいるデータから、有機的な意味のまとまりとつながりであるストーリーを見いだして、データとストーリーを関連づけながらストーリーにそってデータを並び替えること
このデータとストーリーの間のコーディング作業は、調査報告書(論文、エスノグラフィ)上ではブラックボックスになっている。
コーディングはいわば舞台裏であり、職人芸の領域とも言える。料理人が違えば、食材が同じでも、違った料理になる(文字通り「目茶苦茶」になることもある)。同じように、データが同じでも、コーディングが下手だと、おかしなストーリーになってしまう。
質的データ分析の目的──ストーリーを見いだす
調査対象となっている社会的世界についてストーリーを見いだすこと
ストーリーとは、「意味のまとまり」と「その有機的なつながり」
ストーリーとは、具体的には、本の目次のようなもの
ストーリーがデータと矛盾せず、読者が「調査対象の社会的世界はこうなっていたのか、なるほど!」と思わせれば、分析は成功と言える。
科学的要素:ストーリーとデータが矛盾しない
文学的要素:「なるほど!」と思わせる「具体的で詳細な厚い記述」と「意外性のあるストーリー展開」
図:まとめ「データ、コーディング、ストーリー」
ストーリーの例
基本的な論文の構成
序論
本論
先行研究
研究方法
データの記述
データの説明
結論
expository writingで勧めるストーリー
Description 記述
Sequence 継起(歴史、過程)
Comparison 比較
Cause and Effect 原因と結果
Problem and Solution 問題と解決
先行研究からストーリーを学ぶ(まねる)
その他さまざまな先行研究がストーリーの素材を提供する
地域社会学IIの授業前半(6つの作品紹介)は、データの収集法と完成図であるストーリーの紹介と言える
さまざまな先行研究をたくさん読むことで、「面白い」と思えるストーリーを見いだすセンスが磨かれる。ストーリーの「型」を多数知っているほど、データからストーリーを見つけるのが容易になる。
参考文献
佐藤郁哉, 2002, 『フィールドワークの技法──問いを育てる、仮説をきたえる』 新曜社.
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