2012年4月7日土曜日

株式会社テンポプリモ|dress Room【アーティスト特集】シズオ・Z・クワハラ


若いお客さんを引っ張りだすためのアイデアが実現しはじめています。

-記念すべき最初の楽屋にやってきたのは、指揮者のシズオ・Z・クワハラさんです。日本人の両親をもつ彼は、7月1日にアメリカ・オーガスタ交響楽団の音楽監督に就任しました。こんにちは。今日はようこそこの楽屋にお出でいただきました。

お招きいただきありがとうございます(笑)。

-早速ですが、オーガスタ交響楽団の音楽監督就任おめでとうございます。就任までの経緯を聞かせてもらえますか。


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ありがとうございます!まず応募から始まるのですが、2年前くらいに書類を送り、何百人のうちから最終的に4人が最終選考に呼ばれました。最終選考の直前には電話での面接を受けました。その際、なぜこのオーケストラの音楽監督に応募したのか、オーガスタにはどれくらい滞在できるか、オーケストラをどうしてゆきたいか、集客のためにどんなアイデアがあるかを聞かれた記憶があります。実はこの電話は日本でのツアー中に受けたのですが、時差の関係で深夜の2時に行われました。その時に何を答えたか、夜中だったということもあり忘れてしまいましたが(笑)、就任した今でも変わらないのが、オーケストラには独自性が必要で、ミッションステートメントを作り、何を目� �にしてやっていく組織かをはっきりさせること。ただ演奏しているだけの団体ではなく、この組織は何をしてゆくのかをはっきりさせることが大事とずっと考えていて、実は、既に私はここでそれを始めました。例えばオーケストラの名前を変えたり(The Augusta Symphony → Symphony Orchestra Augusta (SOA))、ロゴを新たに作ったり。事務局も柔軟なため、若いお客さんを引っ張り出してゆくためのアイデアが実現しはじめているのです。 一方で課題となるのは、今までついてきたサポーター(スポンサーや観客)は大幅な変化(change)を望まないことです。大事なお客様ですからバランスが難しいのですが、変化の理由を伝えながら、理解を求めてゆく必要があります。「貴方達が助けてくれて続いてきたオーケストラだけど、これからもっと良くするためにこうすべきで、こうしたステップをとっているんだ」と説得していく必要がある。

-オバマ大統領のChangeというメッセージを想起させますね。


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そうそう、それに乗っかってゆけばいいと思っています。アメリカ自身が変わっていくということにみんな興味を持っている。 オーガスタは黒人人口が多く、オバマ大統領の就任で盛り上がっているのですが、一方でコンサートのお客様はほとんど白人です。実はこれが大きな課題なのですが、町の中でも本当に人種の区分けがはっきりしていて、たとえば白人の美術館と黒人の美術館があるのです。それをどうまぜあわせるかがキーと思います。コーペンハーヴァー市長も、ひとつの街を創ることを目指していますが、乗り越えなければならない壁があって、力を合わせていこうという話をずっとしています。

-クワハラさんはアメリカ国籍ですが日本人の両親の血を引いており、黒人でも白人でもないから、間に入って仲介するような存在としての役割を期待されているのでは。

ね、そういうようなこともあるかもしれないけれど、やっぱ り、オーケストラの音楽監督を見る目は厳しく、日本の血を引いていたところで、オーケストラ団員も白人が圧倒的に多いから、黒人のお客様からは白人サイドの人とみられてしまう。そういうイメージをいかに払拭するためには、はじめから違うことをしなければならない。そのために自分を助けてくれる人を探す必要があるのです。市長さんは白人ですが、若くて力のある人だし、また、政治力を持っている黒人も、その人たちにもオーケストラのボードメンバーとして参加してもらおうと試みています。

-肌の色は関係なく、町全体が一つになっていこうという動きを起こしているのですね。

今までのオーケストラはそうした壁を作ってしまっていました。なので誰のために演奏するかという時に、どうしても 偏ってしまっていたのです。それはオーケストラの責任であり、そうした態度を変えないといけない。まあ、そこからはじめなければならないでしょうね。

僕がオーケストラに何を与えられるかは決まっているものなので、それをベストの域にもって行くしかありません。


ステイシークリントンは"何を着用しない"

-話は戻りますが、オーディションに残った4人のうち、3人はアメリカ人だったのですか?

みな白人で、男性1名、女性2名。彼らも才能があり音楽監督になってもおかしくありませんでした。私もふくめてアメリカ国籍でしたが、私はヨーロッパの先生についていて、彼らはアメリカの先生についていたため、国内でキャリアを積むにはよかったが、選ぶほうからすれば、自分は違ったものをもっていると見えたのではないかと思います。その点が不思議に見えて、魅かれたのではないでしょうか。

-アメリカ以外のエッセンスを持っているが影響を与えてくれるということに期待があったのでしょうね。

そうですね。何かを感じたんでしょうね。それが何かは今でもわからな� �けど、僕がオーケストラに何を与えられるかは決まっているものなので、それをベストの域に持っていくしかありません。僕はその上で、芸術家として向上していかなければならないし、それだけしかできない。4人の中で一番僕が若く、経験が少なかったのですが、そうした僕を信じてくれていて、将来的に同じ目標を持っていると感じたのではないでしょうか。 やはりどうしてもオーケストラそれぞれの性質があるし、誰がどのオーケストラに合うかというのは、くじ引きみたいなものでもあるので、たまたま当たったんじゃないかな(笑)。

-オーディションはお見合いみたいなものだったのでしょうかね。

そうそうそう、試しに一週間一緒に生活してみて、「あ、良かった」とか「あ、良くなかった」とかあったんじゃないかな(笑)。

-お互いのフィーリングが合ったということですね?


そうですね。僕もヒューストン(テキサス)に住んでいたことがあったから、アメリカ南部の環境にはなれていた。オーガスタはヒューストンから離れているけれども南の気質があるのです。
-地域によって、考え方から習慣から異なるのですね。
全然違う。女性を大切にする南のエチケット、レディスファーストの考え方はあそこらへんからくる考えだから、そういうのもわかっていないと、何よあの人!と嫌われてしまいますからね(笑)。

-就任の演奏会が10月でしたね。

はい。ジョン・ウィリアムスの「サウンド・ベルズ」を演奏します。これは今の皇太子殿下の結婚記念の際に捧げられた作品です。僕が就任していちばん最初に演奏する曲を何にするかはすっごく悩んだことで、アメリカのオーケストラなのでワーッと華やかな曲にしたかったのですが、この曲がふさわしいと思ったのは、日本の皇太子様に捧げる作品をウィリアムスが書くときに、日本の鐘の音を使うのではなく、わざわざアメリカのベルを使ったわけです。というのは、自分たちか� ��、アメリカの文化から、日本に捧げるという意味で作られた曲で、だからそれにしようと思ったのです。

-よく考えられた、いい選曲ですね。

なかなか選ぶのに苦労しました(笑)。そして2曲目はヒンデミットの「ウェーバーの主題による交響的変容」。3曲目はラフマニノフの「交響曲第3番」です。自分がオーケストラからどんな音を引き出せるかということを考えて、この3曲が出てきました。ヒンデミットはテクニカルな面でも、はっきりとドイツ=アメリカンのいい音を出せるようにと考えています。またラフマニノフは僕が最も得意な曲です。

-毎回の演奏会にテーマがあるのですね。それから、1年間のプログラムを決めるにあたって考えたことはありますか?


要は、流れが無いといけない。オーガスタ交響楽団というのは何なのかということを考えた時に、オーケストラの良いところと良くないところを考えねばなりませんし、それは音楽監督の責任だと思います。オーケストラは常にレベルが上がっていかなければならない、そう考えると、レパートリーを選ぶ際に、どういう曲を演奏させたらオーケストラが良くなるか。大きい曲ばかりを演奏していてもオーケストラはよくならない。たとえば、3回目の演奏会ではバロックとモーツァルトを取り上げますが、基本的な曲が音楽的にできていないと、大きい曲を演奏した時に音楽性が出てこない。そういうことも考えながら流れを作り、最初と最後にスタンプを押すのです。それが、最初のコン� ��ートのメインでラフマニノフの3番を演奏し、6回目の最後はマーラーの交響曲第5番を演奏する選択でした。 来シーズンからはテーマにより一貫性を持たせることを考えています。今シーズンはテーマそのものが僕の就任なので、要は、できるだけ僕がふっているコンサートという事をアピールしていく必要があります。その次からはひとつのテーマなりスレッドがないと、お客様も何が起こっているのかわからないだろうから、そういうコミュニケーションをとれるような環境を作りながら、今年は特に、一つ一つの公演をアトラクティブなプログラムで「これならいきたいな」と思うものを作っていこうと考えました。



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